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札幌地方裁判所 昭和61年(行ウ)10号 判決

原告 ヤマヤ株式会社

被告 北海道知事 常呂町長

主文

一  原告の被告北海道知事に対する訴えを却下する。

二  原告の被告常呂町長に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告の請求の趣旨

1  被告常呂町長が原告に対し、昭和六〇年一〇月一九日付でなした米穀小売業許可取消処分を取り消す。

2  原告と被告北海道知事との間において、原告が許可された米穀小売業者であることを確認する。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  本案前の答弁

(一) 原告の被告らに対する訴えをいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  本案に対する答弁

(一) 原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  被告北海道知事(以下「被告知事」という。)は、食糧管理法八条の三第一項に基づき、米穀小売業を営もうとする者に対する許可権限を有し、被告常呂町長(以下「被告町長」という。)は被告知事の委任を受けて、常呂町において米穀小売業を営もうとする者に対する許可権限を有するものである。

2  被告町長は、昭和六〇年七月二日、原告に対し、次のとおりの米穀小売業許可処分をした(以下「本件許可処分」という。)。

(一) 営業所又は販売所の所在地 常呂郡常呂町字常呂四五五番地

(二) 業務を行う区域      常呂町

(三) 許可の有効期間      昭和六〇年七月二日から同六三年五月三一日まで

3  被告町長は、昭和六〇年一〇月一九日、原告に対し、本件許可処分を取消す旨の処分をした(以下「本件取消処分」という。)。

4  しかし、本件取消処分は、本件許可処分に何ら取消原因がないにもかかわらずなされたものであるから違法である。

5  被告町長は、被告知事から指示を受けて本件取消処分をなしており、したがつて、被告知事は本件取消処分を取り消す旨の判決がなされてもこれを尊重せず、行政事件訴訟法三三条を無視して原告の営業を妨げる新たな措置に出るおそれがある。

したがつて、原告には、被告知事との間において、原告が米穀小売業を営むことを許可された米穀小売業者であることを確認する利益がある。

6  よつて、原告は、被告町長に対し本件取消処分の取り消しを求めるとともに、被告知事との間において原告が許可された米穀小売業者であることの確認を求める。

二  被告らの本案前の主張

1  被告知事の主張

(一) 被告適格の不存在

被告知事に対する本件訴えが公法上の当事者訴訟であるとすれば、国、地方公共団体その他の権利主体が被告となるのであつて、行政庁が被告とはならないから、被告知事には被告適格は存しない。又、右訴えが抗告訴訟であるとすれば、被告適格を有するのは処分行政庁であり、被告知事には被告適格は存しない。

(二) 確認の利益の不存在

本件取消処分を取り消す判決が確定すれば、行政事件訴訟法三三条により、委任行政庁たる知事はこれに拘束されるから、本件確認の訴えには確認の利益がない。

2  被告町長の主張

(一) 本件許可処分は、米穀小売業者でない原告が食糧管理法施行令(以下「政令」という。)第五条の一二第三項第一号所定の一斉更新の場合としてではなく、新規の米穀小売業の許可申請をしたことに対してなされたものであるが、右許可処分を行うためには、これに先立ち、以下の手続が必要となる。

(1) 北海道においては、地方自治法一五三条二項の規定に基づき、食糧管理法施行細則(昭和五七年北海道規則三二号。以下「細則」という。)一一条により、米穀小売業の許可を行うこと及び許可に関する事務の一部が北海道知事から市町村長に委任されているが、右許可に先立ち必要となる政令第五条の一二第三項第二号所定の区域指定を行うことは知事から市町村長に委任されていない(細則一一条第一号ホ)。

そこで、市町村長は、既存の小売業者以外の者に対して新たに米穀小売業の許可を行う必要があると認めるときは、まず、小売業者の許可を行う必要がある区域に関する意見書を知事に提出することが必要となる。

右意見書の提出を受けた知事は、まず、右区域指定をする必要があるが、その際には、これに先立ち、学識経験者及び関係市町村の長その他の関係者の意見を聴くことを要し(政令第六条)、北海道においては、北海道米穀流通適正化協議会運営要綱により、地域消費者協会、卸売業者、北海道米穀小売商業組合支部、関係市町村、学識経験者、北海道食糧事務所支所、支庁により構成される地区特別部会の意見を聴くことが要求されている。

(2) 又、小売業の許可については、農林水産大臣の定める一定の期日に行うこととされ(政令第五条の九第三項による第五条第三項及び第四項の規定の準用、読み替え)、ここにいう農林水産大臣が定める一定の期日については、昭和五七年一月一四日農林水産省告示第六七号の六号が各許可の類型に応じてその期日を明らかにし、政令第五条の一二第三項第二号の区域の指定により行われる小売業の許可(本件のような一斉更新の場合以外における新規小売業の許可)については、都道府県知事による区域指定の日から六月以内において都道府県知事が定める日としている。したがつて、本件米穀小売業の許可においては、都道府県知事による許可日の定めが必要となる。

(3) 更に、都道府県知事は、政令第五条の一二第三項第二号の区域指定をしたときは、当該区域並びに当該小売業の許可を行う日、当該許可の申請に係る期間及び許可定数を公示するとともに、関係する市町村の長に通知しなければならないとされている(食糧管理法施行規則六一条、以下右規則を「規則」という。)。

(4) 右のほか、政令第五条の一二第一項の規定する許可申請者に要求される要件についても、同項第五号は、「申請者が米穀を買い受けようとする卸売業者又は卸売業の許可を受けようとする者に対し、農林水産省令で定めるところにより、米穀の買い受けに係る登録の予約をしていること」を要件の一つとして掲げているところ、区域の指定により行われる小売業の許可を受けようとする者に係る登録の予約については、前記告示一五号の二において、許可の申請期間の開始する日前において、知事の定める期間内に行うこととされている。

(二) ところが、本件においては、被告町長は、昭和六〇年六月二四日付で原告からなされた米穀小売業の許可申請について、被告知事による区域指定、学識経験者等の意見聴取、被告知事による許可日の定めなど右法令に基づく手続がなされていないのに、昭和六〇年七月二日付で本件許可処分を行つた。

又、本件においては、被告知事は、前記告示一五号二所定の期間を定めていないのであるから、原告及び卸売業者は買受け登録の予約をなすことができないものであるにもかかわらずこれをなしているのであり、被告町長は許可申請に際して原告から提出された米穀の買受け登録の予約の証明書につき不適切と判断すべきであつたのにこれをしないで本件許可処分をなした。

(三) 以上の各手続は、消費者や既存小売業者など関係者の利害調整を図るとともに、新たに許可を得たいと考える者すべてに公平に機会を与えるためのものであるから、右手続を欠く本件許可処分は重大かつ明白な瑕疵があり無効である。

そこで、被告町長は、本件許可処分には、重大かつ明白な瑕疵があり無効なものであると判断して、昭和六〇年一〇月一九日付で本件許可処分を取り消した。

(四) 本件取消処分がなされた経緯は以上のとおりであるから、本件取消処分の性格は、本件許可処分の無効を確認し、それを公に宣言した、いわゆる無効の宣言というべきものであつて、本件許可処分が無効な行政処分であることを明白にするためのものであるから、これを取り消すとすれば再び無効な行政処分が外形上存在することになる。

したがつて、本件取消処分の取消を求める法律上の利益はなく、本件訴えは不適法なものというべきである。

三  被告らの本案前の主張に対する原告の反論

1  被告知事の主張について

確認訴訟の当事者が行政処分をなす権限を有する行政庁であるのは当然であり、本件は所有権その他の私法上の権利関係の存否にかかわるものではないから、地方公共団体が当事者となる余地はない。

2  被告町長の主張について

被告町長がなした本件取消処分は、本件許可処分を受けて営業をしていた原告が営業を継続していくことを突然不可能にさせ、それが原告に与えた打撃は甚大であるから、原告にはその取消を求める法律上の利益がある。

四  請求原因に対する被告らの認否

1  被告町長

請求原因第1ないし3項の事実は認め、第4項の主張は争う。

2  被告知事

請求原因第1ないし3項の事実は認め、第4、5項の主張は争う。

五  被告らの抗弁

本件取消処分がなされた経緯は本案前の主張のとおりである。本件許可処分は、無効なものというべきであり、本件取消処分は本件許可処分の無効を確認し、それを公に宣言したものなのであるから、何ら取り消されるべき瑕疵はない。

六  抗弁に対する原告の認否及び主張

1  否認する。

2  被告町長は、原告が法八条の三第二項及び政令五条の一二の規定する各要件を具備するものと認定して本件許可処分をなし、小売業許可証を原告に交付し、原告は右許可証の交付を受け、直ちに営業を開始し三か月余の間営業を継続していた。

そして、被告町長が本件許可処分をした際になした右要件の認定には誤りがなく、明示した理由は客観的事実と合致し、被告町長が原告に交付した小売業許可証は適式の公文書であつて、その形式内容とも違法な点はない。許可権限を有する被告町長自ら本件許可処分の有効性を確信し、本件許可処分を受けた原告はもとよりのこと取引先である米穀卸商、一般顧客を含め誰ひとりとして本件許可処分が当然無効などという認識あるいは疑念を抱いた者はいないのである。

したがつて、本件許可処分に重大かつ明白な瑕疵があつて、本件許可処分が無効となるとは到底言えない。

3  被告らが本件許可処分の瑕疵として主張するところは、いずれも瑕疵のないものかあるいは軽微な瑕疵である。すなわち、

(一) 政令五条の九第二項は、「小売業の許可は市町村の区域ごとに、かつ営業所又は販売所において行う。」と規定し、細則一一条第一項は、「市町村の区域を越える区域又は市町村の区域を分けた区域を定めること」を知事の所管とするが、そうでない限り許可の事務・権限を市町村長に委任しているから、被告知事による区域指定は不要である。

本件許可処分においては、小売業許可証に、「業務を行う区域・常呂町」と記載されているとおり、被告町長による区域指定がなされている。

(二) 政令六条は、都道府県知事が区域指定をしようとするときは、学識経験者及び関係する市町村の長その他の関係者の意見を聴くものとすると定めているが、本件においては、関係する市町村の長である被告町長自身が本件許可処分をしているのであるからその意見は明白であり、学識経験者の意見については事後に聴くことによつて手続上補完しえないことではない。現に本件許可処分の効力に影響を及ぼすような学識経験者の見解が存在する事実もない。

(三) 都道府県知事による許可にかかる区域と許可日の公示を欠いたからといつて、そのことは本件許可処分の効力を左右する程のものではない。手続の瑕疵によつて行政行為の効力が否定されるのは、むしろ被処分者に十分な主張、立証の機会を与えず、適正手続保障の法理に反する場合である。

4  以上のとおりであるから、本件許可処分には瑕疵はなく、本件取消処分が違法であることは明白である。

七  原告の再抗弁

仮に、手続上の瑕疵が取消原因にあたるとしても、本件許可処分を取り消すことは条理により許されない。

原告は、本件許可処分を受け、直ちに米穀小売業を開業し、本件取消処分がなされるまで三か月余り営業を継続した。もともと被告町長が本件許可処分をしたのは、地域に米穀小売店がなくなつたことによつて地域住民の不便が現実化していたため、その不便解消を図つたからであつて、原告は被告町長及び地域住民の要請に応えるべく十分の準備をして物的人的諸条件を整え、本件許可処分を受け直ちに開業した。それにもかかわらず、本件のごとに些細な、しかも本件許可処分を行う際の内部的な手続違反を理由にして、原告が営業を開始して三か月余りも経過した後に、原告に付与した営業の権利を一方的に全く否定する取消処分をすることは、条理に照らし許されないものと解すべきである。

八  再抗弁に対する被告らの認否及び主張

1  争う。

2  本件取消処分は、先に主張したとおり、有効に成立した行政行為につき、その成立に瑕疵があることを理由としてなされたものではなく、はじめから行政行為の内容に適合する法律的効果を全く生じない無効な行政行為につき、その無効を確認し、公に宣言する意味でなされたものである。したがつて、かかる取消処分には、条理による制限は存しないものというべきである。

仮に、無効宣言の意味での取消に条理による制限がはたらくとしても、この制限がはたらくのは、処分後長期間を経過し、それを無効とすることによつて相手方の信頼を裏切り、法律生活の安定を害し、公共の福祉に重大な影響を及ぼす場合であり、本件のように、処分後三か月余りしか経過していないような場合にこの制限がはたらくことはない。

第三当事者の提出、援用した証拠〈省略〉

理由

第一被告知事に対する請求

被告知事に対する本件訴えが被告適格を欠くから不適法であるとの同被告の本案前の主張について検討する。

原告の被告知事に対する本件訴えは、被告町長がなした本件許可処分が有効であることを前提にして、原告が許可された米穀小売業者という法的地位を有することの確認を求めるというものである。してみれば、被告知事に対する本件訴えは、行政事件訴訟法の規定する抗告訴訟にあたらないから、行政庁たる被告知事には被告適格がなく、不適法であるといわざるを得ない。

第二被告町長に対する請求

1  被告町長は、本件許可処分は無効なものであつて、本件取消処分は本件許可処分の無効を確認し、それを公に宣言した、いわゆる無効の宣言であり、これを取り消すとすれば再び無効な行政行為が外形上存在することになるから、原告には本件取消処分の取消を求める法律上の利益がないと主張する。

しかしながら、原告は、本件許可処分が有効であると主張して、本件取消処分の取消を求めているのであるから、本件取消処分がそれによつて本件許可処分の効力を失わしめた本来の意味の取消処分である場合にその取消を求める法律上の利益があることはもとより、仮に、被告町長が主張するように、本件取消処分が本件許可処分の無効を宣言する趣旨でなされたものであつたとしても、その形式において取消としてなされている以上、有効に成立していた本件許可処分の効力をそれによつて失わしめた行政処分であるかのような外観を呈することになるのであるから、そのような本件取消処分によつてもたらされた外観を排除し、本件許可処分の効力が存続していることを確認する意味における取消を求める法律上の利益があるものというべきであり、被告町長の本案前の主張は理由がない。

2  そこで、本件許可取消処分の取消請求について検討する。

(一)  被告知事は、法八条の三第一項に基づき、米穀小売業を営もうとする者に対する許可権限を有し、被告町長は被告知事の委任を受けて、常呂町において米穀小売業を営もうとする者に対する許可権限を有するものであること、被告町長が昭和六〇年七月二日に原告に対して本件許可処分をし、同年一〇月一九日に本件取消処分をしたことは、当事者間に争いがない。

(二)  次に、本件許可処分の瑕疵について検討する。

(1) 本件許可処分は、米穀小売業者でない原告が政令第五条の一二第三項第一号所定の一斉更新の場合としてではなく、新規の米穀小売業の許可申請をしたことに対してなされたものであることについては、弁論の全趣旨から明らかであるが、右許可処分を行うためには、これに先立ち以下の手続が要求されていることが明らかである。

イ 北海道においては、地方自治法一五三条二項の規定に基づき、細則一一条により、米穀小売業の許可を行うこと及び許可に関する事務の一部が北海道知事から市町村長に委任されているが、新規の米穀小売業の許可に先立ち必要となる政令第五条の一二第三項第二号所定の区域指定を行うことは知事から市町村長に委任されていない(細則一一条第一号ホ)。

そこで、被告町長がかかる申請に対して許可をするには、政令第五条の一二第三項第二号の規定する都道府県知事による区域指定のなされていることが前提として必要であることになる。そして、都道府県知事が区域指定をしようとするときは、政令第五条の一二第三項第二号所定の事項に関し学識経験者及び関係市町村の長その他の関係者の意見を聴くものとすると定められている(政令第六条)。この点について、成立に争いのない乙第六号証によれば、北海道においては、食糧管理法の一部改正に伴い昭和五七年七月に改正された北海道米穀流通適正化協議会運営要綱により、地域消費者協会、卸売業者、北海道米穀小売商業組合支部、関係市町村、学識経験者、北海道食糧事務所支所、支庁により構成される北海道米穀流通適正化協議会地区特別部会の意見を聴くことが要求されていることを認めることができる。

ロ 又、小売業の許可については、農林水産大臣の定める一定の期日に行うこととされ(政令第五条の九第三項による第五条第三項及び第四項の規定の準用、読み替え)、ここにいう農林水産大臣が定める一定の期日については、昭和五七年一月一四日農林水産省告示第六七号の六号において、各許可の類型に応じてその期日を明らかにし、政令第五条の一二第三項第二号所定の区域指定により行われる小売業の許可については、郡道府県知事による区域指定の日から六月以内において都道府県知事が定める日を農林水産大臣が定める一定の期日としている。したがつて、本件米穀小売業の許可においては、都道府県知事による許可日の定めが必要となる。

ハ 更に、都道府県知事は、政令第五条の一二第三項第二号所定の区域指定をしたときは、当該区域並びに当該小売業の許可を行う日、当該許可の申請に係る期間及び許可定数を公示するとともに、関係する市町村の長に通知しなければならないとされている(規則六一条)。

ニ 政令第五条の一二第一項の規定する許可申請者に要求される要件について、同項第五号は、「申請者が米穀を買い受けようとする卸売業者又は卸売業の許可を受けようとする者に対し、農林水産省令で定めるところにより、米穀の買い受けに係る登録の予約をしていること」を要件の一つとして掲げているところ、区域の指定により行われる小売業の許可を受けようとする者に係る登録の予約の場合については、前記告示の一五号二において、許可の申請期間の開始する日前において、都道府県知事が五日以上の期間を設けて定める期間内に行うこととされている。

(2) これを本件についてみると、成立に争いのない甲第三ないし第五号証、乙第二号証及び弁論の全趣旨によれば、本件許可処分に先立ち、被告知事による区域指定がなされておらず、その前提としての地区特別部会における審議、区域指定を前提に行われるべき被告知事による許可を行う日の定め、当該区域並びに当該小売業の許可を行う日、当該許可の申請に係る期間及び許可定数の公示もなされていないこと、又、本件許可の申請に先立ち申請者に要求される要件についてみても、被告知事が米穀の買い受けに係る登録の予約をなすべき期間を定めていないことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(3) したがつて、本件においては、原告の許可申請が適式のものではなく、又、許可に先立ち要求される被告知事による区域指定及びそれに伴う手続がなされていなかつたのであるから、被告町長は、原告に対して米穀小売業の許可処分を行うことはできないはずであつたにもかかわらず本件許可処分を行つたものということができる。

ところで、新たに米穀小売業の許可を受けようとする場合について、前記のように都道府県知事による区域指定がなされていることを前提とし、それに伴う手続を整備したのは、消費者に対する米穀の適正かつ円滑な供給を確保するうえで、その地域における既存業者等の利害関係人との利害の調整を図ることが必要であり、又、新たに米穀小売業の許可を受けようとする者に対してはその機会を公平に与えることが必要であると判断されたことによるものと解される。

先にみた本件許可処分の瑕疵は、右許可処分手続の根幹に関わるものであつて、米穀小売業の許可についての法制の趣旨に照らしてみると、重大でかつ明白なものであるものということができるから、本件許可処分は無効なものといわざるを得ない。

そして、本件許可処分が無効なものである以上、被告町長がなした本件取消処分は、本件許可処分の無効を確認し、公に宣言したものとして、それには何ら瑕疵はないものということができる。

(三)  原告は、本件許可処分を取り消すことは条理に照らし許されないと主張する。しかし、原告が主張するように、本件において原告が本件許可処分を受けて三か月余り営業をしていたからといつて、本件許可処分が違法、無効なものであるにもかかわらず、それが無効であることを主張しえないとするような特段の事情があるとまでいうことは困難である。

第三結論

よつて、原告の被告知事に対する訴えは不適法であるからこれを却下し、被告町長に対する請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 福永政彦 山本博 峯俊之)

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